浅田次郎『蒼穹の昴』感想考察あらすじ 時は清朝、立身出世の物語

小説

もう3月だというのになかなか寒い日が続きますね。

きょう紹介するのも浅田次郎先生の作品です。

今回は『蒼穹の昴』です!

浅田次郎中国史シリーズの最初の作品です(このあと『珍妃の井戸』『中原の虹』『マンチュリアン・リポート』『天子蒙塵』と続きます)。

かつてNHKでドラマ化されたこともあり、知っている方も多いのではないでしょうか。

舞台は清王朝の時代。ひとことでいえば、金持ちの放蕩息子と貧乏な家の息子それぞれの立身出世の物語です。西太后をはじめとした実在の人物とともにお話が進んでいきます。

『坂の上の雲』(司馬遼太郎著)の中国版、浅田次郎版といったところでしょうか。

それでは早速参りましょう!

『蒼穹の昴』の登場人物やあらすじ、内容は?

登場人物

かなり多くのキャラクターが登場します。ここに書くのはほんの一部です。いくつかの呼び名を持つ人物はそれぞれ”/”で区切って併記します。

※実在の人物に関しては史実に基づいて描かれているため、歴史的な出来事(戊戌の政変等)についてはネタバレとはせず、記入します。

主人公 李春雲(リイ チュンユン)/春児(チュンル)

ひとりめの主人公が李春雲です。春児という愛称でよく呼ばれます。架空の人物です。

中国は静海県、梁家屯の貧しい家の四男坊。春児は兄たちを失い、肥料となる馬の糞拾いでなんとか食い扶持を得て母と妹を支えながら生活してました。

暑さに焼かれ、寒さに凍える。どんな虫のような生活を送る春児の家族は「没法子(メイファーヅ:どうしようもない、仕方ないの意味)」と自分に言い聞かせて何とか生きています。

そんな彼に、白太太という老婆が占いをして予言を与えます。

「お前には秦の始皇帝や清の最大版図を築いた乾隆帝と同じ昴の星がついている。将来西太后のそばに仕えてあまねく天下の財宝を手に入れるだろう

主人公 梁文秀(リァン ウェンシウ)/史了(シーリャオ)

こちらがもうひとりの主人公がこの梁文秀です。字が史了。こちらも架空の人物です。

春児の兄貴分です。梁家屯の郷紳の次男坊。昼から居酒屋で酒を飲むような奔放さをみせるが、頭脳はぴりりときれます。

親にかわいがられ、優秀とされていた長男を差し置いて、むしろ煙たがられていた文秀が科挙の受験資格をもつ「挙人様」となります。

そんな文秀にたいして与えられた白太太の予言は、

「おまえは学を磨き、天子(光緒帝)のそばに仕えて天下の政を司ることになるだろう

とのことでした。

文秀は春児を連れて科挙の試験へと向かいます。

光緒帝/愛新覚羅載湉(アイシンギョロツァイテン)/万歳爺(ワンソイイエ)

清の11代皇帝西太后の甥。実在の人物です。

文秀が仕えることになると予言されたのがこのひとです。

最大版図を築いた6代皇帝乾隆帝のころの勢いは陰り、衰退していく清において3歳にして皇帝に即位します。

伯母の西太后が大きな力を持ち、政を行いました。

西洋の学問に触れながら成長したのちに親政を始め、近代化を図って戊戌の変法を行います。

しかしここで西太后と対立し、戊戌の政変をおこされ改革に失敗。幽閉され、若くして亡くなります。

西太后(シータイホウ)/慈禧(ツーシー)/老仏爺(ラオフオイエ)

9代皇帝咸豊帝の妻で10代皇帝同治帝の母親。実在の人物です。

春児が仕えることになると予言されたのがこのひとです。

光緒帝が幼いころに政治を担い、親政が始まると頤和園で隠居を始めます。

しかし光緒帝が戊戌の変法を実施すると戊戌の政変というクーデターをおこして政治の実権を恢復。光緒帝を幽閉し、崩御ののち溥儀を次の皇帝として指名します。

日本では「悪女」という印象の強い彼女ですが、この作品では敏腕政治家で国民に慕われる存在として描かれていますユン・チアン『西太后秘録』でもこのような描かれ方がされたいます。日本人の彼女に対するイメージは誤りなのかもしれません)。

【ネタバレ注意】あらすじ、内容

今回はこの段階からネタバレに入ってしまうのでお気を付けください。

光緒12年、科挙を受ける文秀のお供として、春児も都へ向かいます。

都でふたりは幼い男の子を宦官にする職人のもとを訪れます。そして春児は、宦官となる以外に白太太の予言を実現させることはできないと覚悟を決め、自宅へ戻ったのち自ら男性の証を切り落とし、以降西太后のお目通りのかなう宦官、御前太監を目指すこととなります。

一方文秀は、なんとその年の科挙で最優秀の成績である状元として合格を果たし、光緒帝に仕える身分となります。

そうです、兄弟のように過ごしてきたふたりは、西太后側と光緒帝側それぞれの陣営に分かれることとなります。

春児はライ病にかかり引退した京劇役者の弟子となり、芝居を好む西太后に気に入られ、御前太監へと出世していきます。

文秀の方も状元としての出世コースを駆けあがり、光緒帝の側近、宰相として働くようになっていきます。

そして列強各国の軍国主義に対抗するため近代化を図ろうと、光緒帝陣営は戊戌の変法を実施し、それまでの清朝の体制はそのままに、西洋の技術を取り入れようとします。

しかし、西太后はこれに反対します。自分のかわいく若い甥っ子に、清の国の幕引きという責任を負わせたくないという親心が印象的に描かれます。

西太后は連綿と受け継がれてきた中華民族の在り方に終止符を打つことの辛さを、自分が背負うことに決めたのです。

そうとは知らぬ光緒帝陣営は、変法運動の障害となる西太后を幽閉しようと天津で軍を率いていた袁世凱(ユアンシイカイ)を送りますが、彼の裏切りにより失敗、逆に光緒帝が幽閉され、11代皇帝は崩御します。

春児と文秀は、それぞれ西太后と光緒帝の側近として胸の内を聞きだし、浅田次郎が思い描く戊戌の政変の真相が描かれていきます。

変法派は西太后陣営によって処刑されていきますが、文秀は彼らの思いを背負い、死ぬことも許されず、春児の助けもあって日本へ亡命します。

春児は紫禁城に残って西太后からお宝を授かり浅田次郎中国史シリーズ1作目の『蒼穹の昴』は終わります。

『蒼穹の昴』の感想は?どうだった?

文句なしの面白さです。

文庫版での4冊を一気に読み終えてしまいました。

はじめは中国人の名前や地名がなかなか頭に浸透せず困りましたが、数分ののちにはそんなことが気にならないほど引き込まれました。

また、浅田次郎先生の文体が堅めで漢語が多いことも清という舞台にピッタリでしびれます

そして、西太后が思いやりのあるあたたかい女性として描かれている点が新鮮で面白く読めました。

さらに、中国へ渡ることなくこの作品を書き上げたというから驚きです。頭おかしいです(誉め言葉)。

もちろんこの作品でも泣かせ屋としての仕事はばっちりです。

西太后の最期は涙なしに読めません!

『蒼穹の昴』読んで何を思った?考察は?

理不尽とたたかうふたりのヒーローの、立身出世物語

この作品のテーマはずばり、理不尽に立ち向かう人間の姿ではないでしょうか。

春児は貧しい家に生まれ、それがために親や兄を亡くします。

一生を馬糞拾いとして送るのではなく、到底叶いそうもない予言をひたむきに信じ、男性の証を切り落として努力を重ね、予言のとおりに西太后のそばに仕えて中華のお宝を手に入れます。

「男が没法子(メイファーヅ:どうしようもない、仕方ないの意)といって待っているわけにはいかない!走って未来を捕まえなくてはいけない!」

といって家を出るシーンは印象的です。

その途中多くのひとびとに出会い、愛されるようになっていきます。

文秀は裕福な家庭に生まれながら、長男に比べて親や家庭教師に期待されることもなく疎んじられる生活を送ります。

せいぜい地元で税をとりたてる未来しか想像しない周囲の人々。そんな人々を見返す形で挙人となり驚かせます。

挙人となっても昼から酒を飲み下品な冗談をいいながらも、

学而時習之、不亦説乎

と学問にはげみ、状元としてエリート官僚の道を進み、自分勝手な列強が中国に進出する中で解決に頭を絞ります。

ふたりとも、自分の意思とは関係なく与えられた環境や理不尽の突っぱねてそれぞれの道を進んでいきます。

そして、ふたりが西太后や光緒帝やに仕えるようになってからも、彼らは時代のもたらした理不尽に立ち向かおうとそれぞれの立場で知恵を絞ります。

『終わらざる夏』や『降霊会の夜』といったほかの浅田次郎作品にもみられるように、この作品の大きなテーマは理不尽に立ち向かうことのように感じます。

「あきらめずに頑張ればなんとかなる」なんて簡単な話ではなく、理不尽に立ち向かう人間の力強さに魅せられる、そんな物語です。

「龍玉」について。なぜ乾隆帝は龍玉を隠したのか?

小説には、天子として天に認められたもののみが手にすることができるとされる秘宝「龍玉」が登場します。

それをもつものはみな、天下を治めることができるのです。ただし、天命のないものがそれを手にすれば忽ちからだは砕け散るといいます。

しかし、光緒帝の時代にはすでに天子の証である龍玉は失われています。6代皇帝乾隆帝が隠してしまったのでした。乾隆帝以降の皇帝には天命のみしるしがないため、清が衰退することになったのです。

ではなぜ乾隆帝は龍玉を隠すことにしたのでしょうか。

天下を手に入れることが、最もほしいものが手に入らないことを意味すると乾隆帝が考えたのではないでしょうか。

乾隆帝は、心の底から愛した女性の心を手に入れることができませんでした。

振り向かせることもできぬまま、その女性は死んでしまいます。それを機に乾隆帝はカスティリオーネに龍玉の秘匿を命じます。

乾隆帝は、自分の子孫たちに天下よりも大切なものを手に入れてほしいと願ったために、この選択をしたのではないかと考えています。

龍玉については、最新の『天子蒙塵』においても引き続き登場しており、何のメタファーなのかはまだはっきりとしません。

今後の続編を待ちつつ、考えがまとまったらまた載せようと思います。

『蒼穹の昴』のおすすめ度は?

ずばりおすすめ度は…

5.0

5/5点です!3回目にして早くも満点出してしまいましたすみません(笑)
それでは得点の内訳をみていきましょう!(それぞれの項目を0、0.5、1のいづれかで採点。詳細はこちら https://tacksamycket.com/first-posting/

価値観に影響、刺激をもたらしてくれるか

1ポイントです。

西太后が悪女だったというステレオタイプは見事に砕け散りました。

歴史を考えるときに、登場人物を心のある人間として捉えてみる。

そうするとそれまで見えていた景色が180度回ってしまい得るんだと考えるようになりました。

知識を与えてくれるか

1ポイントです。

科挙の試験の様子やシステムが詳しく描かれています。

県試→府試→院試→歳試→科試と試験を繰り返して合格し続けた天才中の天才がやっと科挙の最初の試験郷試をうけることができるそうです。

こんなことこの本を読まなければ知る由もないですし、調べようとすらしませんよね(笑)

さらに、李鴻章や袁世凱といった実在の人物も出てくるので歴史の勉強にもなります。

ちなみに宦官になるために去勢するシーンも詳しく描かれていて勉強に(?)なります!

展開や構成が、読んでいて面白いものか

文句ありません。1点です。

まずふたりの主人公の出世していく様は見ていて気持ちがいいです。

さらにそれだけでは終わらず、その兄弟同然のふたりが対立する立場でそれぞれの頭をフル回転させていくのです。しびれます。

そしてしつこいですが西太后の暖かみが見えるシーンはハンカチ必須です。

その本独自の新しさを持っているか

1ポイントです。

まず時代設定が新しく感じます。

有名な三国志の時代や秦の時代ではなく、複雑な清末という時代を扱っているのです。

そして戊戌の変法から政変までを、単なる歴史上の出来事としてではなく人間のドラマとして描いている点も新しく感じました。

著者のほかの作品を読みたくなるか

1点です。言わずもがなでしょう。

強烈なメッセージと面白い展開、漢語を多用した堅めの重い文章。

ぜひご堪能ください!

おわりに

いかがでしたか。

『蒼穹の昴』にはたくさんの個性的で魅力的なキャラクターが登場します。

春児派か文秀派か選ぶのもよし、ほかの登場人物も含めて推しメンを決めるのもよし。とにかくいろいろな楽しみ方がある作品です。

ちなみにぼくの推しメンは譚嗣同です。変法派の中心として活躍した彼の生き様も死に様も圧巻です!

あ、そうそう、「圧巻」という言葉は科挙からできた言葉だそうですよ。興奮しますね。

この小説も勇気をもらえる作品です。是非読んでみてくださいね!

シェアやコメントお待ちしております。みなさんの推しメンも教えてくださいね!よろしくお願いします!


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